【最新】ネイチャーポジティブサミット熊本2026:ネイチャー開示を始める企業が今おさえるべき基本

「決定の場」ではない国際会議を、自社の検討材料にどう活かすか

2030年までに自然の損失を食い止め、回復に転じさせる。2022年に196カ国が合意した昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)が掲げるこの目標の達成期限が、刻々と近づいている。そうした中、2026年7月14日・15日の両日、熊本では「第2回グローバルネイチャーポジティブサミット」が開催される。

本コラムでは、来月熊本で開催されるサミットで注目しておきたい議論と成果、ネイチャー開示が未着手の企業がこれを機におさらいしたいネイチャー開示の基本と、今年の生物多様性条約COP17に向けて知っておきたいネイチャー開示の動向をまとめて整理する。

グローバルネイチャーポジティブサミットとは

熊本サミットの主催は、Nature Positive Initiative(NPI)と国際自然保護連合(IUCN)日本委員会だ。これに加え、ICLEI日本、環境省、農林水産省、国土交通省などが共催に加わる。

主催者であるNPIは、世界最大級の持続可能なビジネス・ファイナンス連合、基準・開示・目標設定の枠組み、世界的な自然保護団体、科学・地方自治体・先住民の知識ネットワークを束ね、「ネイチャーポジティブ」の実現に向けた中長期の取り組みを支える組織である。コアグループにはTNFD、SBTN、GRI、IUCNといった、自然資本開示に関わる主要な枠組み・団体が名を連ねる。また、熊本開催公式サイトによると、現在、300以上の組織がネイチャーポジティブの世界の実現に向けて行動することを表明しているという。

本サミットは第2回にあたる。第1回は2024年10月にオーストラリア・シドニーで開かれ、環境大臣をはじめ企業・金融機関・環境保護団体・学術界・市民社会から、50カ国超・1,000人以上が参加した。主な成果としては、自然を経済・ビジネスの意思決定に組み込む必要があること、進捗を測る明確で一貫した指標が重要であること、そして環境課題の解決には先住民の知見が鍵となること、といった点で幅広い合意が得られた(オーストラリア政府気候変動・エネルギー・環境・水資源省による開催報告より)。

「決定の場」ではなく「実装を後押しする場」

本サミットはGBFの実施を加速することに焦点を当てており、2026年10月にアルメニア・エレバンで開かれる生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)に先立ち、自然回復に向けた戦略と成果を発信する場と位置づけられている。締約国が条約の実施状況をレビューし、必要な決定を採択する締約国会議(COP)とは性質が異なる。

ただし、今年のサミットは民間によるネイチャーポジティブな取り組みや成果に特に焦点を当てており、企業のサステナビリティ実務者にとっては注目すべきイベントの一つだ。

「決定の場」ではない国際会議を、自社の検討材料にどう活かすか

「サミットで何かが義務化されるのか」と身構える必要はない。前述のとおり、ここは条約上の決定を下す場ではなく、COP17に向けて事例と機運を積み上げるショーケースの場だと言える。そのため、ネイチャー開示が未着手の企業が注目すべきなのは、サミットが自社のステークホルダーにもたらす波及効果だ。COPのような意思決定こそないが、先進事例が共有され話題が広がれば、国内外のステークホルダーの自然課題への関心は一段と高まる。とりわけ日本での開催を機に、国内の取引先・投資家・社内の各方面から、自然との関わりについての問い合わせが増えることも十分想定できる。

というのも、近年、企業による自然への影響の見える化(開示)が求められる動向が進んでいる。

TNFDの提言にコミットした企業・金融機関(TNFDアダプター)は、2025年11月時点で733組織にのぼり、前年の同時点から46%増加した。日本の採用組織も2026年6月時点で民間企業184社、金融機関42組織と、各国でも有数の規模に達している。任意の枠組みでありながら、ネイチャー開示はすでに世界の資本市場で無視できない潮流となっている

また、企業・金融機関のグローバル共通指標群「State of Nature Metrics」の策定が最終段階に入っており、パイロットテストに参加した企業事例のインサイト集「Lessons from the field: how piloting has enhanced the practicality of state of nature metrics」(NPI)が5月に公開された。同指標の本格運用に向けて、本年後半に最終版が公開される予定だ。気候関連の情報開示と同様、自然分野でもバラバラの指標・開示形態が標準化へ向かい、いずれ開示が当然とされる流れが見て取れる。

サミット開催前におさらいしたいネイチャー開示の基本

サミットを自社の検討材料にするには、まずはビジネスにおける自然資本・生物多様性の開示の全体像を押さえておくと迷いない。ここからは、特にネイチャー開示未着手の企業が最初に知っておきたい三点をおさらいとして整理する。

企業にとっての「ネイチャーポジティブ」とは

ネイチャーポジティブとは、2030年までに自然の損失を止め、回復軌道に乗せるという国際的な目標だ。企業にとっては、自社の事業が自然に与える影響(インパクト)と、自社が自然に依存している関係(依存)の両面を把握することが出発点となる。

TNFDだけではない:ネイチャー開示の主なフレームワーク

「ネイチャー開示=TNFD」と捉えられがちだが、実際には複数の枠組みが関わり合っている。主なものを下表に整理する。

フレームワーク概要
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)ISSBの基準策定への移行を受け、2026年Q3をもって追加セクターガイダンスを含む技術的作業を完了予定。フレームワーク自体は有効で、ISSBの実務記述書もTNFDを土台とする。事業者向けの統合的なリスク・機会評価手法としてLEAPアプローチを提供している。
CDP2026年からは海洋モジュールの新設と、カカオ・コーヒー・天然ゴムのフォレストスコアリング対象への追加が加わる。事業活動が生物多様性に与える影響に関するデータ収集を促す。任意開示から現状把握を始める入口になりやすい。
SBTN(Science Based Targets Network)科学に基づく自然目標(淡水・土地・生物多様性など)の設定手法を提供する。気候分野のSBTiの自然版にあたり、目標設定の段階で参照される。
ISSB(IFRS財団)2026年4月22日、自然関連開示を独立基準ではなく、IFRS実務記述書(任意)として提案する方針を発表。重要な自然関連開示の提供はIFRS S1適用企業においてすでに義務対象となる。公開草案は2026年10月の予定。

なお、ISSBについては、4月に非拘束的なIFRS実務記述書(任意)への変更が決まったことで、「では急がなくてよいのか」と受け取られがちだ。しかし、任意化されたとはいえ、TNFD準拠の任意開示は世界的に増加傾向にある。2025年11月時点で、TNFD提言に基づく開示を任意でコミットした企業は733社を超え、その時価総額の合計は9兆ドルに達している。

さらにISSB議長は、重要な自然関連開示の提供は任意ではなく、IFRS S1がすでにそれを求めていることを明確化したと述べている。投資家をはじめとするステークホルダーの関心を見据えれば、対話の材料として着手しておいて損はない。

ネイチャー開示の第一歩:現状把握

最初から完璧な開示を目指す必要はない。実務上の第一歩は、自社と自然との接点(サプライチェーン含む)を把握することにある。TNFDのLEAPアプローチを用いた簡易な分析や、CDPなどの任意開示の質問項目に沿った棚卸しは、その現状把握の手がかりとなる。

まとめ:今年のネイチャーサミット開催を、検討開始のきっかけに

熊本でのサミットは、自然をめぐる議論が国内でより一層可視化される機会となるだろう。未着手の企業にとって大切なのは、「全社で完璧な開示を一度に整える」ことではなく、「まず自社が自然とどう関わっているかを把握する」ところから始めることだ。2030年までの自然回復のロードマップを手がかりにし、自社の自然との関わり方の検討を始めるきっかけとして受け止めたい。

参考情報:Global Nature Positive Summit 2026熊本市で開催!「第2回グローバルネイチャーポジティブサミット」 九州の豊かな自然と文化が舞台のエクスカーションCDP2026情報開 示サイクルに向けた準備IFRS – ISSB agrees on the proposed way forward for nature-related disclosuresNPI: Lessons from the field: how piloting has enhanced the practicality of state of nature metricsAustralian Government – The Global Nature Positive Summit 2024TNFD Adopters List



<執筆者

マルティネス リリアナ(ESGJournalスペシャリストライター)
サステナビリティ学修士。シンクタンクにて、海洋・大気環境分野を中心とした環境政策・制度検討支援(調査・分析)に従事。また、国際海事機関(IMO)における海洋環境関連条約の技術・政策議論にTechnical Advisorとして参画した経験を持つ。その後、 Big4 ファームにて、気候変動、ネイチャー課題を中心とした企業向けアドバイザリー業務に従事。現在は非財務情報開示フレームワークからサステナビリティを巡る国際動向まで、企業実務の視点からオリジナル解説およびホワイトペーパーを執筆。

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